ボヴァリー夫人

「あなたは正しすぎる そんな男、世界一つまらないわ」
映画「酒とバラの日々」のカースティンのセリフ。

ボヴァリー夫人 (新潮文庫)

確かにあんまり彼氏にしたいタイプの男性ではない。
しかし皮肉にも、親が娘の夫に望むのはこんな男性ではないだろうか?


エンマことボヴァリー夫人も親に勧められるまま「理想の夫」と結婚する。
夫のシャルルは医者で、まじめな好人物。でも面白いわけでも魅力があるわけでもない。

期待はずれの結婚生活に無気力になっていくエンマの前にレオンという男性が現れ、
二人は当然恋に落ちる。
しかしエンマの恋はこれだけにとどまらず、次はロドルフとも恋に落ちた。

レオンとの恋でイニシアティブを取るのはエンマ、
エンマをリードするのはロドルフ。

二つの正反対の恋の狭間で、常に美しくありたいと思うエンマは
新しいドレスや装身具を買いあさり、あっという間に膨大な借金を作ってしまった。
借金が焦げ付き、どうにもならなくなったエンマは殺鼠剤を飲み自殺する。

物語はここでは終わらない。
残された夫シャルルは最後に妻の顔を見たいといい、その顔を見たショックから廃人になってしまう。

エンマは自業自得だと思う。レオンやロドルフは楽しむだけ楽しんで特に苦しんではいない。
なのになぜシャルルだけ?
最初は私もそう思っていた。

でも最近は、この話の中で一番罪深いのは実はシャルルなのかも、と思うようになってきた。

彼は「世間的に見て正しい人間」だったので、一番楽に生きることができただろう。
しかし、彼の本心は押し殺されたままだったのではないだろうか?

エンマは結果的には破滅してしまったが、それでも恐れることなく自分のやりたいことを
追求し続けた。自分らしくあろうと、あらゆるものと戦い続けた。

もしもシャルルがただの「善良な田舎の医者」ではなく「本当のシャルル・ボヴァリー」らしく
生きていたら、エンマを惹きつけることができ、不倫という罪は生まれなかったかもしれない。

「善良な仮面」をつけたシャルルがエンマという正直な女性を追い詰め、破滅させた。
最近、そんな風にこの物語が思えてきた。