ゼロらかの出発 〜奴隷から君主になった男 ゾイラス〜

美と愛の女神アフロディーテの名に由来するアフロディシアス

アフロディシアスの遺跡

かつてはギリシャ風の都だったこの都市は、後にローマの都市となり、ローマ帝国時代には花の都と呼ばれるようになります。

この街に繁栄をもたらしたのは、ガイウス・ユリウス・ゾイラス(Gaius Julius Zoilos)。
彼はユリウス・カエサルの元奴隷。
奴隷なのに名前が立派です。

一口に奴隷といっても、一生肉体労働だけで終わる奴隷もいれば、今で言うスポーツ選手のようなグラディエーター、そして教育を受けた奴隷。まじめで、賢く、忠実に従う奴隷は、主人の家で権力を持ち、後に自由を手にすることもありました。
ゾイラスもこの教育を受けた奴隷で、主人の家で権力を手にしていました。まぁ、カエサルの秘書みたいなもんです。
だったら秘書って記せばいいじゃん!
奴隷っていうから、肉体労働だけをする身分みたいに思うけど…。
でもきっと勤務形態が従業員という感じじゃなく、奴隷だったからなんでしょうが。

ゾイラスはカエサルガリアやブリタニアに進行する際は随行しており、その時にカエサルの目に留まったのです。

カエサルは自らを、愛の女神アフロディーテと軍神アレスの子エロスの子孫だと自称してました。
まぁ、戦においては軍神アレスのように働き、恋愛においてはアフロディーテに寵愛されてるとしか思えないほど、充実していたので、当時の人もきっと納得していたと思います。
カエサルはゾイラスの故郷・アフロディシアスに光り輝くエロス像を寄贈し、ここからアフロディシアスはギリシャ風の街からローマの都市へと変わっていきます。

B.C.44年、カエサルの暗殺を機に、権力闘争によってローマは混乱に陥り、これに乗じてペルシャ帝国が攻めてきて、アフロディシアスはたちまち戦乱の舞台と化します。ゾイラスはアフロディシアスを先導するため、カエサルの後継者オクタビアヌスによって解放されました。ゾイラスは富と権力をもって故郷へ帰り、街の防衛を先導した。B.C.39年、ペルシャ軍を小アジアから追い出すことに成功すると、オクタビアヌスアフロディシアスを自由な街とし、税金を免除しました。

浮いた資金で、ゾイラスは地位と名声を得るために神殿を作ります。
でも、信仰心っていうよりは、自分の地位確立のためだったと思います。

ゾイラスがせっせと神殿を作っていたころ、ローマは再度戦乱の時を迎えようとしていました。
B.C.31年のオクタビアヌスアントニウス
そう、クレオパトラの関わったあの戦いです。

ゾイラスは悩みます。
アフロディシアスはアントニウスの領土だけど、しかしゾイラスを解放したのはオクタビアヌス
でもアントニウスは亡き主人の友達だし、んー、でも今ローマでは嫌われ者だし…。

(アントニウスは妻と離婚し、妖艶で有り余るほどの資産を持つクレオパトラと再婚したので)

まぁ、一応、ゾイラスはオクタビアヌスにつくんですけどね。

しかし、この戦いはあっけなく幕を閉じます。
ほら、おっちょこちょいのアントニウス
クレオパトラはどこだ――!
って従者に訪ねたとき、従者が「お墓にいます」
って言ったもんだから、てっきりクレオパトラが死んだと思って後追い自殺しちゃったから。

あんまり戦ってないけど、これにより、巨額の報酬を受け取ったアフロディシアスは、次に劇場を作ります。
さらに、芸術や文化の中心部とするために、ローマ式の拳闘もギリシャ風の陸上競技も行えるスタジアムの建設。
アゴラと呼ばれる、ローマ最大級の市場…。

B.C.20年ごろ、ゾイラスは死亡しますが、その後アフロディシアスは繁栄を続けますが、ローマ帝国の衰退、東方勢力の侵入、地震などによって、6世紀ごろ廃墟となりました。