霊の出る仮眠室

これはあるお客さんから聞いた話です。

その人は、ご主人と一緒に町工場を営む奥さん。それまでは奥さんが事務をしていたのですが、体調を崩したこともあり、新たに事務員を雇うことにしました。
事務員に雇われたのはレイコ(仮名)。29歳の独身女性で、簿記の資格とパソコン操作はできるものの、あまり長期仕事をしたこともなく、すでに1年以上のブランクがありましたが、この不景気、それもありうる話、と思い奥さんはレイコを採用したのです。何よりも、レイコは自転車で通える所に住んでおり、通勤手当を支払う必要がありませんでした。
レイコは可もなく不可もない感じなのですが、時々、「奥様の後ろに観世音菩薩が見えます」とか「今日はオーラがピンクですね!」など、やたらスピリチュアルなことを言っていました。
奥さんは軽く「あら、そう(微笑)」と受け流していました。
そんなある日、レイコが神妙な顔をして、奥さんにこんな話をしました。
「この会社は危険です。非常に邪悪なものを感じます。特にあの仮眠室のあたりが…」
と、レイコは急におびえ始めました。
「一体どうしたの!?」
「あそこに悲しみとも怒りともつかない恐ろしい念を感じます。最近、仮眠室に泊った人はいませんか?何か恐ろしい思いをしてないか、聞いてみてください。」
「それは霊がいるってこと?」
「そうです。とても凶悪な霊が宿っています。早くお祓いをしなくては、取り返しのつかないことになります。」
「わかったわ。まず最近泊った従業員に事情を聞いてみるわね。でももしあなたが言うように悪霊みたいなのがいたらどうしたらいいのかしら。」
奥さん、ここだけの話ですが、実は私は世の邪悪を払うために遣わされた光の巫女なのです。私にお任せください。」

レイコがあまりにも真剣なので、奥さんは最近、仮眠室に泊った3人にそれとなく事情を聞いてみることにしました。
「何か、会社に要望はない?あまり使ってないけど仮眠室のことでもいいのよ」
すると3人はバツが悪そうにお互いの顔を見合わせました。そしてその中の1人が
「あの…大変言いにくいんですが…」と口を開きました。
「何かいるんスよね…あの仮眠室」と他の従業員。
奥さんは焦りました。
「何がいるの?」
「はっきりしたことはわからないんですが…




たぶん、ダニかノミ?
「そうなんスよ、みんな何かに噛まれたらしく、できものみたいなのができて…。」
奥さんはそれを聞いて胸をなでおろしました。


事情が分かった奥さんは、レイコに仮眠室にいるのは霊とかじゃなくダニかノミだから、心配しないように、と言いました。


その日、レイコは忽然と姿を消しました。



まぁ、アレだ。
正規雇用の地味な女が、スピリチュアルなことを言って、注目を集めようとしていて、たまたま仮眠室に泊った従業員が「あそこ何かいる」みたいな話をしていたのを聞いて、それを裏付けに、自分に霊感があるように見せかけようとした。
でも結局、それは霊とかの類じゃなく、ダニかノミだった。

で、恥ずかしくて、会社から脱走したってことです。

だいたい「光の巫女」って何だよ。