占い師の弟子…？

はじめまして。Iさんの紹介でメールさせていただきました。
いきなりこのようなメールを送るのは失礼ではないかと思いましたが、どうかよろしくお願いいたします。
…こんな書き出しで始まった相談は、占い師になりたいという高校一年生の娘さんを持つお母さん。
Iさんは年１〜２回来る常連さんです。
で、このお母さんが何を言いたいかと言いますと、娘を弟子にしてやってほしいからではありません。そりゃそうだ。どっちかというとやめさせたい。
娘さんが、雑誌やネットで占いを楽しんでいる分にはいいのですが、最近、エスカレートしてネットで高額なオカルト・グッズを買ったり(←どんな？)、学校の勉強そっちのけで占いや魔術の勉強ばかりしていて、成績が急降下しているなど、様々な問題が出て来たからです。
それを占い師に相談するのもいかがなものか…とも思ったのですが、Iさんのことは尊敬しているし、Iさんがやってみては、と勧めてくれたから連絡してきたそうです。
…まぁいいんですけどね。。。
…いかがでしょう。通常の鑑定料金は支払いますので、何とか相談にのっていただけないでしょうか？
相談に乗るというよりは、占い師ごっこを辞めさせてくれ、ということなんですが。
わかりました。是非、娘さんと一緒にお越しください。

と言う訳で、鑑定当日。
お母さんと一緒に来たのは、赤い縁の眼鏡をかけた色白の女の子。目の前のあこがれの職業・占い師さんに目をキラキラさせています。いきなりすごいプレッシャーですよ。。。そして会って早々に、
あの…それ本物ですか？
と、私が着けていたペンダントについて聞いてきました。これね。
はい。18金のホワイトゴールドに41個のダイヤをあしらったものです。
41個！？すごい。。。自分で買ったんですか？
えぇ、まぁ。
娘さんは「ほらぁ」と言わんばかりの目で母親を見ています。そしてお母さんは不安そうにこちらを見ています。
占い師は客商売ですから、お客さんさえ来れば、お金になります。逆に客が来ないと一銭にもなりません。
T-Rさんはお客さんが来る占い師なんですね！じゃあ、T-Rさんみたいになればいいんですよね！？
T-Rさんみたいってどんなだよ。。。ブログで毒を吐きまくるとか…？
まぁ、そういうことです。
T-Rさんは、タロットの他には何かできますか？
タロットはただの卜占ですから、それだけで全てを見ることはできません。手相も見ますし、カバラも少々見ます。
占い以外には？
お母さんの事前情報から行くと、●●召喚的な魔法チックなことを期待しているようです。
出来るかーーー！
私に出来ることと言えば…
エクセルでピボットもできますし、マクロも組めます。あとワードなら差し込み印刷とかもできます。
(ﾟoﾟ)
何、ハニワみたいになってんの？
占い師と言えど、占いだけやってればいいと言う物ではありません。人様にアドバイスする側の人間が人並みのこともできないようでは、話になりませんよね。例えば、彼氏ができたこともない人に恋愛の相談はしないですよね？
…ハイ。
ようやくお母さんの顔から不安の色がなくなった。
貧乏で衣食住さえままならないような人に、お金の相談はしませんよね？
ハイ。
占い師として人にアドバイスをする以上は、自分が人並みかそれ以上幸せでいなくてはいけません。そして、それは占い師としての最低限のことです。占い師として、占いが当たるとか、不思議な力があるとか以上に大切なことはたくさんあります。
それは何ですか？
お母さんの話から行くと、娘さんに話しても実行してもらえそうもないので、話すだけムダだと思いますが。
ちょっともったいぶってみたｗ
そんなことないです。言われたことはきちんと勉強しますから、教えてください。
わかりました。では、お教えしましょう。
それは日本の法律です(`・ω・´)ｷﾘｯ
(ﾟДﾟ;)
最低でも民法・商法・刑法は必須です。
(!￣д￣)えぇぇぇ
( ﾟ,_・・ﾟ)ﾌﾞﾌﾞﾌﾞｯ
実際そうですよ。例えば、こんな人が来たとします。手作り化粧品のサロンを開くのが夢で、アロマテラピーの学校に行こうと思うが、成功するか…こんな人が来たらどうします？
えっと、占ってあげて…良い結果が出たらその人が前向きになれるようなアドバイスをしますし、成功しないんだったらやめるようにアドバイスします。
と、やや不安気な答え。
あのですね、この場合、占いをする前に確認しておかなくてはいけない大事なことがあるんですよ。わかりませんか？
えっと………わかりません。
薬剤師かどうかです。
えっ？(ﾟдﾟ) えっ？(ﾟдﾟ)
親子でえっ？(ﾟдﾟ)ってｗ
当たり前のことですよ。日本には薬事法がありますから。薬剤師以外が化粧品なんか作って人に譲渡してはいけないんです。自分で使う分には問題ありませんが。もし、こんなことも知らずにうかつに客にアドバイスした後に、客が薬事法のことを知れば当然、トラブルに発展します。また、他にもこんなケースとかもありますし。
…そうなんですね。。。
それから、タロットの話になりますが、正直、今、日本語で出版されているタロットの文献で良いものはありません。そうなってくると洋書を読む必要性がでてきます。つまり、タロットの勉強をする前にまず英語。英語を知っておけば、海外の占い師さんと情報交換などもできますし、海外の方を鑑定することもできますしね。
:・∵;(ノД｀)ノひぃ
(≧∀≦）ｱﾋｬﾋｬﾋｬ

数日後。
先日はありがとうございました。帰りにさっそく、書店に寄って娘に六法を勧めたところ、ページをパラパラめくっただけで、法律の勉強を始める気配はありませんでした。また、それ以外にもいろいろと占い師さんは大変な仕事なのだということを痛感させられ、大変良い勉強になりました。Iさんが毎年T-Rさんの鑑定を定期的に受けている理由がわかりました。何か問題が起きた時は、相談すると思いますので、その時はよろしくお願いします。
というメールが。

この高校生に限らず、占い師になりたいという人、拙ブログに「占い師になるには」みたいなキーワードで辿り着いた人、ネット上で見かける「当たる占い師（になりたい）」みたいなブログを書いている人を見るたび、「ゲド戦記」のこの言葉を思い出します。

「そなた、子どもの頃は、魔法使いに不可能なことなどないと思っておったろうな。わしも昔はそうだった。わしらはみんなそう思っておった。だが、事実は違う。力を持ち、知識が豊かにひろがっていけばいくほど、その人間のたどるべき道は狭くなり、やがては何ひとつ選べるものはなくなって、ただ、しなかればならないことだけをするようになるものなのだ。」

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)